『年初 投資家の裾野の広がり』
2021年の年始、暗号通貨ビットコイン(以下、BTC)は、急激な価格上昇により、再び注目を集めて話題となった。2020年12月1日に2万ドルを超えたあとの展開は早く、2021年1月8日には42,000ドル水準に達したのである。しかし、翌11日には一転して高値から20%超急落するという相変わらずの変動率の高さだった。
上昇の背景には、決済手段としてBTCの用途が広がったことや、投資家がポートフォリオに主要な暗号通貨を組み入れ始めるなど、需要が見えてきたことにある。そして、市場参加者の重心が、日本や韓国など東アジア地域から北米にシフトしたことも大きい。北米では、大口投資家や機関投資家の資金が、暗号通貨や暗号通貨ファンドに流入し始めた。
暗号通貨は、伝統的な資産に比べると透明性が非常に低く、取引ルールも定かでなかったため、法令順守を厳しく求められる法人や機関投資家には参入しにくかった。しかし、この2年ほどの間に、米国では取引ルールや管理体制が整備され、暗号通貨の取引環境は改善した。かつては、規制を受けることが暗号通貨にはマイナスの要因と捉えられた。しかし、機関投資家は、ルールが整備され、予見可能性が高いもののほうが、投資対象として取り組みやすい。この変化は、投資対象としての魅力向上につながり、暗号通貨にとって、大きな支援材料となった。
『5月 マスクショック』
イーロン・マスク・テスラ社CEOは、2月、ビットコインをテスラ社の資産として購入することと、2月8日からテスラ社製造のEV車輌の代金として、ビットコインを受入れると公表した。それ以来、暗号通貨相場は活況を呈し、上昇が続いていたが、5月12日にマスクCEOは一転、EV車の購入代金支払いにビットコインを受付けないことを発表し、方針転換した。その後わずか1週間ほどで、ビットコインは2月以来の上昇分を失った。
もちろん、マスク発言だけが上昇の理由だったわけではない。5月6日には米投資銀行のゴールドマンサックスがマーケットメイクするというニュースが流れ、5月8日にもシティバンクが何らかの関連業務を開始するというニュースが市場を駆け巡った。こうしたニュースは、強気派の背中を押した。
ただ、このときのマスク発言はタイミングが悪すぎた。2021年に入ってから5月初めまでの上昇が急すぎたことも影響しているだろう。更に悪いことに、5月18日には中国人民銀行が仮想通貨を決済手段として認めない方針を改めて確認し、一暗号通貨には冷水が浴びせられた格好となった。
『6月 中国当局の規制強化の報道で暗号通貨市場は再度混乱』
5月のイーロンマスクショック後の混乱は、6月上旬に入ると落ち着きを取り戻した。しかし、21日に中国当局が暗号通貨関連取引にかかわる業者への取り締まりを強化すると報道される、暗号通貨は一斉に売りを浴びた。BTCは一時31,000ドル台に下落し、イーサ(以下、ETH)も2,000ドル台を割り込んだ。
中国人民銀行(中央銀行)は、中国建設銀行や中国工商銀行、中国農業銀行といった金融機関 や支付宝(アリペイ)などの決済企業の代表者を呼び出し、顧客デューデリジェンスを強化・徹底する事や、暗号通貨の取引を行う者の口座を閉鎖すること、暗号通貨に関連したサービスの提供を禁止することを要請した。人民銀行は、暗号通貨の取引は、投機的な色合いが濃いものであり、経済や金融の秩序を乱し、違法な資産移転やマネーロンダリングなどの金融犯罪リスクを助長するなど、人民の富を危険にさらすとの声明を発表し、暗号通貨の取引を批判した。
『9月 ビットコインがエルサルバドルの法定通貨に』
9月7日、中米エルサルバドルは、BTCを正式に法定通貨とした。暗号通貨が、ついに、一国の法定通貨として認められたのである。ただ、道は平たんではなく、暗号通貨らしいと言えばそれまでだが、相変わらずのボラティリティに富んだ波乱含みのスタートとなった。
法定通貨化初日には、エルサルバドル政府の公式電子ウオレットがダウンロードできないという事態に見舞われたほか、30ドル相当のビットコインが支給されるキャンペーン目当てにアクセスが集中して、大混乱となった。また、首都サンサルバドルでは、法廷通貨化に反対する市民がデモを繰り広げた。世界銀行は、エルサルバドル政府からビットコインの法定通貨化に際して求められた支援を謝絶し、格付け会社ムーディーズはエルサルバドルの信用格付けを、法定通貨化決定後に引き下げ、同国のドル建て債券は売り圧力を浴びるなど、混乱を極めた。
『10月 米国当局は暗号通貨へのアプローチで中国とは全く異なることを確認』
10月5日、下院公聴会に臨んだゲンスラー米証券取引委員会(SEC)委員長は、暗号通貨の規制について、中国が採ったような禁止措置を講じるかとの、共和党議員の質問に対し、「米国SECの暗号通貨へのアプローチは、中国とは全く異なる」と答え、仮に禁止する場合でも議会が法制化する必要があると語った。また、同委員長は、暗号通貨業界が投資家や消費者の保護、マネーロンダリング対策、税法など法令遵守のルールを、先んじて、しっかりと構築することが、政府の重視している点だと説明した。
これに先立つ、9月30日の議会証言でも、パウエルFRB議長が、暗号資産を正面から禁止する「意向はない」と明言しており、ゲンスラーSEC委員長の証言は注目されていた。
中国金融当局が、暗号通貨に関連する取引を一切禁止する姿勢を明確にしたことに対して、米国金融当局は、暗号通貨取引を禁止する意向はなく、公正に取引が行われるようなルール作りと健全な市場基盤の整備、正確な情報開示等の顧客保護措置が採らられば、異を唱えないとの見解を明確にしたのである。
10月19日には、暗号通貨BTCの先物を対象とした上場投資信託(ETF)がニューヨーク証券取引所(NYSE)で取引が開始された。米国金融当局は、暗号通貨取引に関して、強い拒否反応や厳しい規制を課す意思を示さなかった。これにより、BTCは、今年4月に付けたそれまでの最高値である64,800ドルを更新した。
『12月 金融緩和に一区切りで、暗号通貨も伸び悩み』
ビットコインは11月に再度最高値をわずかながらに更新したが、以降、12月にかけては軟調な傾向が続いた。48,000ドル水準も幾度か割り込み、テクニカル面でも、一段の調整が懸念されるようになってきている。
また、インフレヘッジの手段になりうるとの期待も膨らんだことがあったが、最近は伝統的資産にリスク回避の動きが見られると、同時に売られるような連動性も散見され、特徴がぼやけてきているとの指摘もある。相変わらず、変動率が他の資産に比べられないほど高いこともあり、保有しにくいと考える投資家も少なくない。市場がリスクオフに傾いた時に、市場で取引される資産として、リスク回避の観点から売りを浴びるのは仕方がないという見方はある。
『2022年の展望は?』
筆者は、かねてより指摘しているとおり、暗号通貨市場の参加者は北米地域で一段と増えていること、法人や機関投資家がデジタル資産を一部保有することに関心が高まってきていることは、長期的には、暗号資産の市場拡大と価格の安定につながっていくと考えている。取引手段が多様化し、透明性の高い市場で取引されるようになってきていることも、プラス材料だろう。引き続き、北米市場を中心とした参加者の増加や多様性により、また暗号通貨そのもののユーティリティ性の向上もあり、主要な暗号通貨は、市場での認知を獲得して、拡大をたどるであろう。
市場規模は、3兆ドルに増加したと言われる。その拡大傾向は不変であろう。ボラティリティは覚悟しなければならないため、売られてくる局面で、しっかりと相場に入る気力は求められよう。個人的には、ビットコインも市場規模では成長するだろうが、多様に応用が進むイーサに注目したいと考えている。