米FRBはインフレ警戒重視へ転換
11月30日、パウエルFRB議長が、米国議会上院銀行委員会の公聴会で証言し、これまで「一過性」の要因がもたらしたと説明してきたインフレ率の上昇について軌道修正しました。2022年にはインフレ率上昇は、現在よりも鈍化すると見込んでいるものの、従来予想よりも物価上昇圧力が強力で根強いことを認めた上で、一時的なものでない可能性を認めたのである。米FOMCでは、今年4月の会合後の声明以来、インフレ率の上昇は「一過性」の要因が原因と説明してきた。それには懐疑的な見方をする市場参加者も多く、論争の的となってきた。また、パウエル議長は、これまでに示した計画よりも、資産購入プログラム段階的縮小を前倒しして、より早く終了させることを検討するとの方針を示した。これはすなわち、米FRBがより金融政策を引き締めるスタンスに傾斜することを意味する。
為替相場では、米ドル買い・新興国通貨売り
米FRBが、金融引締めペースを加速させる可能性が高まると、為替相場は、早速ドル高で反応した。そして、新興国通貨の中でも、インフレ圧力の上昇に苦しんでいる通貨は、売り圧力が強まった。特に、今年9月以降、金融緩和に転じているトルコ中央銀行の金融政策に疑念を持たれているトルコリラは、市場で売りを浴び、米ドルに対して1ドル=13.454リラと過去最安値を更新した。
9月からの2カ月余りで、トルコリラは米ドルに対して30%近く下げている。新興国通貨の中で、最も下げ幅が大きい。トルコの消費者物価指数CPI(10月)は19.9%に達しており、これはトルコ中銀の目標の約4倍にあたる。そんな環境にあって、政策金利を下げるという前代未聞の政策を採ったトルコ中銀は、市場からの信認は喪失している。もちろん、これは、トルコ中銀の責任というより、異を唱える中銀トップの首を次々とすげ替え、政策をほしいままにするエルドアン大統領の責任である。
外貨準備も尽きたトルコ ~ 輸入インフレに苦しむ
トルコ中銀はスポット市場、先物市場の両方に為替介入したが、介入を継続する十分な外貨準備がトルコにはないことで、効果は長くは続かないだろう。市場は、それを見透かしている。エルドアン大統領は議会演説で、トルコは金利上昇で利益を狙う人々からの要求に応じて金利を設定することはなく、高金利に基づく金融政策を放棄したと言明した。どうやら、市場とトルコ政府の溝は埋まりそうにない。
経済再生に苦しむトルコは、経済のテコ入れ策として、金融政策を景気刺激的な政策にシンクロさせようとする試みを展開している。しかし、インフレ率の上昇加速には歯止めが利かず、かえってリスクを大きくしている。また、著しい通貨の下落は、輸入インフレに繋がっている。過去5年間で、トルコリラの価値は、1ドル=3トルコリラから約4分の1になってしまった。それでも、輸出は増えているわけではない。
かつて成長著しい新興国の目玉とまで評価されたトルコは、エルドアン大統領の独裁政治により大きく可能性を削がれてしまっている。残念なことである。